山崎幹夫の各種センサー

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『もう夜』ノベルその3/クリストファー・ロビン


以下は6月15,16,23日にラ・カメラ@下北沢で上映する新作短編映画『もうすぐ夜がやってくる』のノベライゼーションで、全部で10回の連載になる予定のものです。上映会のくわしい情報については、こちらの記事を参照ください。

女のコミュネームはペウレプという。発語しにくい、変わった名だ。まあ、発語できるだけマシか。昨今は顔文字使ったコミュネームなんてのも散見するしね。たとえば「\(^o^)/」こういうコミュネームで、読みは「ばんざい」だったりとか。
ペウレプとは「仔熊」のことだという。
「クマって聞くと、自分はリアルの動物の熊じゃなくて、どうしてもクマのプーさんを最初に思い出しちゃう」
そう言ってから、あ、そう言えばと思い出す。
いま散歩している住宅地から少し離れたところに数棟の高層マンションが建っている。まだ夜の浅い時間なの窓明かりがついているのが見える。そのうちのどれかひとつに自分の知り合いの女が住んでいるはずだ。
その女はかつて自主製作映画をつくっていて、クマのぬいぐるみが出てくる作品があったっけ。たしか、映画のなかで彼女が小説を書くという設定で、その小説は99歳になったクマのプーさんが、もう長いこと会っていないクリストファー・ロビンに対して手紙を書くという内容だった。
そのひとはもう映画はつくっていない。しかし文庫本を何冊も出していて、小説家として成功している。この、いま散歩している場所から見える高層マンションのどこかの部屋で、いまも小説の執筆にいそしんでいるのだろうか。
それにひきかえ、俺はいったい何をやっているんだ?
まあいい、考えないことにしよう。
プーさんやティディベアなど、クマのぬいぐるみは昔から大流行だ。
クマは人間を襲うイメージがあるけれど、じっさいのところクマに殺された人間の数よりも、圧倒的に人間に殺されたクマの方が多い。もっと言えば、クマに食われた人間よりも、圧倒的に人間に食われたクマの方が多いだろう。
もっとも多く人間を殺している動物は人間だ。
「そりゃあ、よ、この地球の上に生きている生き物のなかで、一番人間がイカレているからだろ」
そう言った知人もいたっけ。そうかもしれない。
クマを始めとして、ほかの生き物にとってはいい迷惑だろう。ある国の内戦によって、多くの家畜の牛や馬が巻き添えをくらって死んだ。負けた方の陣営の幹部が「死んでしまった牛や馬にも申し訳ないことをしたと思う」と言うと「何言ってやがる」と非難されたのだけれど、人間どうしの争いに巻き込まれて死んだ動物たちこそいい迷惑だったのではないだろうか。
なんてイカレて、なんて思い上がった生き物。