山崎幹夫の各種センサー

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『もう夜』ノベルその9/イオマンテの犠牲の仔熊


以下は6月15,16,23日にラ・カメラ@下北沢で上映する新作短編映画『もうすぐ夜がやってくる』のノベライゼーションで、全部で10回の連載になる予定のものです。上映会のくわしい情報については、こちらの記事を参照ください。

アイヌの有名な祭礼であるイオマンテの祭りでは、熊を犠牲として殺す。このときの熊は、そこらの野良熊を捕獲してくるのではなく、冬眠している母子熊を見つけて、母熊は殺し、仔熊は集落に連れ帰り、集落のなかでイオマンテの日まで大切に育てる。
熊をペットとしている人はあまりいないので、おそらくとても獣臭かったりとかするだろうけれど、仔熊がとてもかわいいということは多くの人が同意してくれるだろう。
イオマンテで殺されてしまうことが定められているにもかかわらず、いや、それだからこそ、この仔熊は集落のメンバーの愛情を一身に集めるアイドル的な存在であることは間違いない。
その仔熊を殺し、肉をいただく。
魂を受け継ぐ、というほど大上段に構える必要はないのかもしれないけれど、じぶんたちの命はそのような犠牲の上に成り立っていることを学ぶわけだ。
駅で出会った女が自分のことをペウレプ(仔熊)と名乗ったのは、自分が何かの犠牲になろうとしていたわけではないだろう。おそらくは本名が熊田だとか熊野とか熊谷とかだからなのだろう。
こんなふうに書いていくとまるでルカニの言い訳だ。「俺じゃねぇ、俺は操られただけだ。所沢の土地にしみ込んだアイヌのことばが呼び起こした何かに、ただ突き動かされただけなんだよぉー」ってね。
ペウレプは犠牲の仔熊で、ルカニがその執行者なのか。
だとしたら、何のための執行なのだろう?
イオマンテの犠牲の熊は、丸太で首をはさみ、窒息死させると言う。
そう言えば、ラブホでペウレプに指をひねられたのは、そもそもはルカニがペウレプの首を絞めようとしたからだった。