山崎幹夫の各種センサー

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PKD『ザップ・ガン』


これはあとがきで訳者の大森望が書いているように、ことディックにおいては物語の破綻していることを好む人にとってはかなりディック長編ランキングのかなり上位に食い込むのではないだろうか。
物語の破綻と言ってももちろん、決定的な部分で何かが欠落しているのではない。ただ、説明不十分な部分があからさまにあったり、登場人物の出し入れが思いつきの殴り書きではないかと思われる部分があったりという程度。そもそもザップ・ガン=究極兵器なんてコトバだけで小説には登場しない。なんと安易なタイトル。ま、それやこれやとじゅうぶん致命的ではあるのだけれど、ディックのキモはそういう部分にはないわけだし、いいでしょ。
それよりも、以下の2つの点が秀逸であると思う。
ひとつは、主人公は唐突に18歳の娘に恋をしてしまうのだけれど、その女=リロ・トプチェフは主人公を憎んでいて、最初に会ったときに主人公に毒を盛る。それなのに、主人公はそのことを喜んで受け入れる。それだけならどうということはないのだけれど、その物語展開の記述のしかたに、作者のディックじしんが深く自殺願望におちいっていることが読み取れて、じつに痛々しい。
もうひとつは、宇宙人の地球侵略を食い止める決め手が、なんと「エイリアンたちの慈悲の心につけいること」であるという、これまた救いようのない展開になっているところ。