山崎幹夫の各種センサー

8mmfilmの情報を提供&映像制作ノートとして始まったが、8mmfilmの死去で路上観察ブログになり、現在はイベント告知のみ

PKD『宇宙の操り人形』


主人公が故郷の町を訪問してみると、自分の記憶とまったく異なることに気づく。しかも自分がその町で生きていた痕跡も発見できない。記憶がすり替えられたのか?
まるで「ミステリーゾーン」のような出だし。かつ、ディックお得意の世界。
安直なオチに持っていかないところはみごとで、チェンジされた「いま」を、念力のような力で変化させていくところの描写はなかなかのもの。これってのちに『ユービック』で生かされてますね。
妻に愛想を尽かされるところ。アイデアが未消化な部分が散見されるところ。つじつまが合わないところがあることなど、じつにディック的な要素に満ちた小説。
しかしこれ、最後はゾロアスター教的な2神の対立によってすべてが説明されてしまうから、SFというよりモダンホラーなんですね。でも、宗教オチになるところは、ディックの後期小説群をも予見していると言えるかも。
朝日ソノラマ文庫なので入手困難かもしれません。
最初に読むものではないけれど、ディックをひととおり読もうとした時は『偶然世界』よりもこちらの方が重要でしょうね。