山崎幹夫の各種センサー

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PKD『ユービック』


これもけっこう評価の高い作品だけれど、なんとなくディックっぽくないんですよ。
ヘンな言い方だけれど、ディックがお手本としたヴァン・ボートの作品に近い感触。主人公が無個性で、しかも活躍してしまう。
超能力者の組織があり、その能力を発揮させないという能力をもった集団がいて、それが会社になっているという新鮮な設定。その戦いが始まったかと思いきや、いきなり現実崩壊して、なにが起こっているのかがわからない。
とてもテンポがいいし、斬新なアイデアが投入されているのだけれど……、ディックらしさが薄い。
ひとつだけ、わかりました。ディックの作品には、いつも主人公の敗北感、徒労感が基調に流れているのだけれど、それは物語とはさほど関係してこないのですよ。しかし『ユービック』の場合、主人公の疲労感ってのについて、説明がついてしまうのですな。そしてそれは物語の仕掛けを解き明かす重要な要素になるわけ。ね、ちょっと「ちがう」でしょう。
あと、私は若き日に初めてこの作品を読んだときに「これ、SFじゃないじゃん」と思ったのだった。他にも『宇宙の眼』とか『死の迷路』なども同じなのだけれど、謎が解明されると、ちょいとSFからズレていることがわかるのね。
また、最後がキマらないのもいまいちかなぁ。はっきり分かれたはずの現実が、どんでん返し的に浸食し合っているという終わり方なんだけれど、ちょいと納得できません。スマートではないと思う。いやディックに対して「スマートであれ」と言う方が間違っているんだけど。
これはディック存命中に映画化が検討されたらしいけれど、CGばりばりに使うことが流行っている今こそ、映画にするのにググッドタイミングかもね。