山崎幹夫の各種センサー

8mmfilmの情報を提供&映像制作ノートとして始まったが、8mmfilmの死去で路上観察ブログになり、現在はイベント告知のみ

PKD『シミュラクラ』


登場人物も多ければ投入されるSFギミックもテンコ盛りという作品。
もちろん整合性は無視されている。ほとんどのことは説明されず、ラストも狙いでなしにぶった切りされている感じ。
だからストーリーを説明してもしょうがないので、記憶に残っているところを羅列してみよう。
●大統領は若い女性。ニコル・チボドゥと言う名だが、もう70年もその地位にあると判明する。現在のニコルは4代目で、俳優が演じている。なぜそうなったのかについては説明されない。
●虫のように小さいロボットが窓の隙間から侵入して、商品の宣伝広告をがなり立てる。神経にさわるのでマイナス効果しかないと思うのだが、物語に直接の影響はない。
核兵器戦争の影響なのか、先祖返りしてネアンデルタール人になってしまった人たちが北カリフォルニアでコミューンをつくって生きている。これはけっこう魅力的なシチュエーションで、ほどほどに描写されるが、やはり物語にさほどかかわらないで終わってしまう。
●念力で楽器を演奏する男がとても重要そうに登場するのだが、最後に大統領ニコルをテレポーテーションさせただけで、結局これも物語にはさほど重要ではない。
●その演奏家に交渉して、録音すべく北カリフォルニアに向かう一行がいるわけだけれど、これも物語にさほど影響せず。
●移動店舗で宇宙船を売っている店がある。火星への移住をすすめているわけだが、道行く人に催眠術的な影響をあたえて火星移住へと誘導するという、ちょいと悪徳な商法をしている。移動店舗でポンコツ宇宙船を売っているというのがおもしろい。しかしこれも重要な要素ではないな。
まだまだ羅列できるが、書いていて気がついた。どれもこれもさほど物語的な結構には重要な要素になっていないじゃないですか。このほか、人間そっくりの擬人体もあり、時間旅行テクノロジーで平行未来を覗く話があり、ナチスドイツからヘルマン・ゲーリングをさらってくる話あり、シミュラクラ製造に関する2社の対立あり、巨大集合住宅でのしきたりに関するエピソードあり、精神分析が禁止され最後の医師のエピソードありと、それがほとんど未消化なままに書き殴られているというもったいないというか、乱暴なというか、ま、つまるところディック的な魅力のある小説。
ちなみに私、間違えてこの本をヤフオクで売ってしまったらしく、家のなかを探したけれど見つかりませんでした。そこで図書館にリクエスト。立川市の図書館からの借用にて借りて読みました。