山崎幹夫の各種センサー

8mmfilmの情報を提供&映像制作ノートとして始まったが、8mmfilmの死去で路上観察ブログになり、現在はイベント告知のみ

オーディオの快楽は音圧の快感

10年近く前のこと、それまで使っていたアンプが故障した。アンプはオーディオ構築においては「精神」の部分になる。つまり、パワーよりもむしろ世界に対する態度や、自然に醸し出される色気の決め手になる部分。
故障したアンプはサンスイの607αというやつで、オーディオ的には中の下のもの。国産でとても真面目な音を作り出していた。機械のパフォーマンスには満足していたわけだけれど、故障したとたんに気持ちが離れた。まるで男女の仲のようなものだと自分でも苦笑してしまった。それほど、さっと気持ちが冷めてしまったのだった。
そこで、次なる精神を探してまわったのだけれど、どうにもこうにも「中の下」あたりの予算ランクで探していると、ぐっとくるものがない。しかたなく、上映会用のミニコンアンプをスピーカー(ビクターSX500)につないで音楽を聞いていたのだけれど、がくぜんと音の質が落ちたのには正直驚いた。ベラっとした音に変貌してしまった。
で、オーディオ雑誌なんぞを買ってきて漫然とながめる。色気もクセもありそうなアンプがいろいろ紹介されているけれど、映画雑誌で旬なイイ男をながめるようなもので、それらは手が届く値段ではない。だいたいそれが出す音を聴いていない。オーディオ専門店の試聴室に行けば聴けるのだろうけれど、恐れ多くて足を踏み入れられない。
さて、そんなジレンマに陥りつつ、雑誌の広告を「こうすれば音がよくなるってみなさん提案しているけれど、まるで健康食品の広告みたいだな」と思いつつながめていて、ある店の所在地に「!」。
うちから自転車で行ける範囲だ。しかしそこは西武園ゴルフ場の裏側で、みごとなくらい何もない場所のはず。
というわけで「そんなところにそんなものが」と興味を惹かれて行ってしまいました。
店、というよりは土建関係業者の倉庫のような建物。中に入ると雑然と部品がならんでいて、やはり工場っぽいのだけれど、それをよく見ると真空管なのね。
さらに奥に入ると、あるある。古道具屋でも見たことないような何やら色気のあるアンプやら何やらが棚に陳列してあって、さらにその奥に「試聴室」が。
「あ、いらっしゃい。どうぞ、お茶でも」
ふと出てきたフランク・ロイドのような気弱そうな男がそう言う。
つられて目前のソファに座ると、やがてお茶を出てきて、そして「お好きな音楽のジャンルは何ですか?」と聞かれる。
やばい。巻き込まれモードに入ってしまった。
「いや全世界、何でも聴きます」と言うと、男はちょっと考えて、何かCDをピラミッドのようなかたちの機械に入れた。すると、
「(あああっ!)」
ズンッときたのだ。音圧が。音は大きくない。かかった音楽はオーケストラではないクラシック音楽。だからたとえばヴァイオリンの音か何かだったのだろう。しかし、そよ風が容赦なく身体をなでるような感触で音圧がきた。身体の表面ではなく、芯の部分を揺さぶった。
うむ、これがオーディオの快楽のひとつなんだな、と思った。
http://www.westernlabo.co.jp/
これがその店のHP。写真の椅子でなく、そのうしろにソファがあって、そこに座ったのだった。
これまでいくつかのレコーディング現場にいたり、大小各種のライブを経験してきたけれど、そこで得られる快楽とはまったく違ったものがあるということを体験したのでした。
もちろん自宅では再現できないし、予算もあるし、ぶちゃけ相談してそこでアンプを買った。14万円でマッキントッシュMA5100という、そのメーカーとしては格安のモデルにしたのだった。製造年度で言えば、壊れたサンスイのアンプよりも10年も古いアンプに乗り換えたことになった。