PKD『最後から二番目の真実』
ずいぶんと読み終えるのに時間がかかった。
これは、翻訳がちとよろしくない。サンリオSF文庫ってのは、ラインナップは凄いものもあるけれど翻訳のマズさに関しては当時からあれこれ言われていたものだ。
それはともかく、核戦争で地中に巨大タンクをつくってそこで生活している人々、しかし戦争が終わっても、地上の人間たちは「戦争は続いている」という偽の情報を流して、自分たちはのうのうと暮らしている、という設定。
これ、いくらでも娯楽SF小説にできる要素が満載であるくせに、いつものようにディックはモタモタしている。そのモタモタの方向がよく受け入れられず、結果として失敗作になっている。
しかしこの小説の白眉は「偽の現実」ではなく、ある男を機械が暗殺する場面の、急に覚醒したかのような精緻な描写だろう。ここはじつによくできている。ここだけよくできているといういびつさが、ディックっぽいんだけれど。