山崎幹夫の各種センサー

8mmfilmの情報を提供&映像制作ノートとして始まったが、8mmfilmの死去で路上観察ブログになり、現在はイベント告知のみ

三日月バビロン『琥珀ノ宴』


いつも記録映像を撮っている劇団「三日月バビロン」の昨年11月末の公演について感想を書きます。
しかし演劇の公演の感想って、書いても公演じたいは終了しているので、タイミングが難しいです。公演初日に見て「大傑作だ!」とか書けば、観に駆けつける人もいるかもしれないのだけれど、公演が終わってしまうと、もうどうしようもないわけでして。
それはともかく。
これまでの公演では、重たい要素が仕込まれていて、それを受け止め、抱えながら鑑賞後の印象を長く味わっていくのが、私なりの三日月バビロンの演劇の楽しみかただった。
ところが今回の演目はとてもエンタテインメント。一言でカテゴライズすると和風伝奇ロマンだった。
いつも仕込まれている「重たい要素」が払拭されていることもあり、さらに出演者が少ないこともあるのだろう、今回の舞台は、出演者たちの個性のはじけぶりが際立っていた。
とくに榎本淳、荻須夜羽のコメディアンぶりは特筆すべきものだった。まるで熟練の格闘家の試合を見ているような気になった。つまり、ザムザ阿佐ヶ谷のような小さな空間では、役者と観客との距離は近い。そうなると、役者の存在感を観客に刻印することは比較的たやすいことになる。だが、距離が近いと難しくなるのが「引きのタイミング」だ。そして、じつは「引き」の作用を的確におこなうことによって、押し付けられたものでない、観客の心から自然にわき出してくる「笑い」を得ることができる。榎本、荻須とも場数を踏んでいる役者として、この「引き」をうまくコントロールすることができるのだろう。
そして主演の木原春菜。このところ「りりしい」役柄が続いていたせいか、今回の演技を見ていて「まるで子猫みたいな可愛らしさを発揮してるな。それも3か月から5か月ぐらいの子猫」と思っていたら、劇中の台詞のなかにも「子猫のよう」と言われていて、「おお、これは狙いの演技かい」と驚いた。そのような「器の大きさと魅力」を見せつけられると、とてもうれしい気分になる。プロレス団体でエースが怪我などで欠場することはありがちなことだけれど、そういうときに、若手レスラーがメインで思いがけない存在感を発揮することがある。木原春菜もそんな感じだったけれど、もう堂々たる主役ぶりです。
そしてよどみない京都弁を披露した梅原真美をはじめ、深澤寿美子、植松みさ希、今夢子らの助演陣も存在感を発揮していて「生身の人間がそこで演じる一回性を楽しむもの」としての演劇のよさを感じさせてくれたのだった。
このお話、この役者陣で、そのまま俳優座あたりの大きな場所で公演できたとしても無理は感じさせなかっただろうと思う。逆に、それだけのクオリティーのものを、ザムザのような場所で観れたということは、どこかしら「共犯者」になれたような愉悦をもたらしたのではないだろうか。
感想を書くのが遅れたことで、ひとついいことが生じた。今年の公演予定を告知できる。
今年もザムザ@阿佐ヶ谷にて、2回の公演をおこなうことになったとのこと。日程は6月24日から27日、10月28日から31日とのことです。