山崎幹夫の各種センサー

8mmfilmの情報を提供&映像制作ノートとして始まったが、8mmfilmの死去で路上観察ブログになり、現在はイベント告知のみ

PKD『流れよ我が涙、と警官は言った』


不思議な透明感をまといながら、するすると物語が進む。ちょっと不思議な雰囲気の長編だ。
物語の結構の破綻はある。だいたい、途中から誰が主人公だかわからなくなる。
スタート時の主人公は、歌手で、テレビキャスターでもある中年男。世の中に広く知れ渡っている有名人のはずが、誰も彼のことを知らなくなるというわけで、現実崩壊がいきなりやってくる。そこで、そこそこタフに立ち回ったりしての物語進行があるわけだけれど、物語の主題は、唐突にズレていって悲劇になだれ込む。ポカンとしてしまうほどあっけなく悲劇が訪れるのだけれど、この唐突ぶりがあとあと効いてくる。
ディックはこの長編のあと『暗闇のスキャナー』を書いている。いちおう、まずは30冊ほどあるディックの「通常スタイルのなかでのSF長編」を再再読しようと思っているので、その枠のなかではもっとも最後の長編作品になる。そのことを踏まえてみれば、なるほど『暗闇のスキャナー』へとつながる感触がそこここに見られることに気づくだろう。