山崎幹夫の各種センサー

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PKD『時は乱れて』


新聞の懸賞クイズを解くことを生業にしている主人公が、そこにはないはずの「電気をつけるためのひも」を暗闇で探したことから、いま、自分がいる現実へ疑いを抱く。そうして、この街を出てみることにするのだが……。
というふうに、比較的ストレートに進む長編小説。現実崩壊のきっかけや、崩壊したあとの暗黒的気分がムクムクわき起こってくる世界の描写など、なかなか読ませる。
ところでちょいと調べると、ディックはこの小説を書く前に、5冊、普通小説を書いたのだそうだ。しかしそのいずれもが売れなかった(そのうちのひとつは死後出版された『小さな場所で大騒ぎ』)。
おそらくその5冊の普通小説はあまりおもしろくはないのだろう。しかしきっと、必要だったのだ。このあと、60年代前半に快作、怪作を何作もかっとばす下地になったに違いない。