山崎幹夫の各種センサー

8mmfilmの情報を提供&映像制作ノートとして始まったが、8mmfilmの死去で路上観察ブログになり、現在はイベント告知のみ

『猫夜』を思い出す5


本日、映写機を搬入してきました。
それからパーティー用の日本酒も選んでおきました。『極星』と『虚港』の印象的なシーンを撮影した土地に蔵元がある酒で、もちろん私は飲んでいて、名前は売れてないけれどいい酒を醸していることを記憶していた蔵元。
ま、それはともかく、昨日の続きといきましょう。
カーコと私のパートのけじめはついたものの、リョウがなかなかうまくいかない。これだ!というカットがやってこない。あせらないことにしていたが、それにしてもだらだらと時間が経過していった。なんと2年も経過した。そうしてようやく「やばい、なんとかしよう」と思い立った。
もうひとつ「やばい」と思ったことがある。リョウに彼女ができて、婚約してしまったのだ。リョウの撮ってくるフィルムには、彼女とのデートのシーンが登場するようになった。これはいけない。つまり、もう一人、登場人物が増えてしまうことになるのは避けたい。
そこで強制リセットすることにした。リョウはひとりでカメラを回すことに煮詰まり、カメラを私の返すシーンで終わることにした。そのカットだけ撮って唐突に入れるとデリカシーに欠如した作品になってしまう気がしたので、カメラを私に返す前の1シークエンスを、あくまでもリョウが一人で撮っているという設定で、実際は私とリョウとで街をぶらぶら歩きながら撮ることにした。
添付画像はその1カット。ここはリョウが勝手に撮ったものだ。屋台のおでん屋に女が座っている。夕暮れの街。帰路をいそぐサラリーマンが傍らを急ぎ足で通り過ぎる。女はそう若くはない。この次のカットでは、じつは女は膝元に犬を置いていて、その犬に何かを食べさせているようなしぐさをしている。
いままで何度も『猫夜』を映写してきて、いつでもこの部分になると、私の胸のうちにこみあげてくるものがある。いったい何だかわからないが、たまらなく淋しいような、そして同時にたまらなく甘ったるいような、そんな感情だ。
この日、夕暮れ時の2時間ぐらいの間にふたりで撮ったシークエンスには、どういうわけか、こういうように作った人間の感情をかき立てる映像が詰まっている。なぜそうなったのかはわからない。しかしこの『猫夜』という作品のなかでの私とリョウとの別れという意味ではなく、これまでずっとつきあってきたし、これからも付き合っていくのだけれど、映画を一緒につくっていくのはこれが最後かもしれないという予感が私にはあった。リョウにもきっとあったはずだ。
この日のこと、もう一度、思い出してリョウと話してみたかったなぁ。